学会長挨拶
日本地すべり学会のさらなる発展に向けて
公益社団法人日本地すべり学会会長
京都大学防災研究所教授/王 功輝
令和8年6月12日に開催されました2026年度第2回理事会におきましてご推挙を賜り,公益社団法人日本地すべり学会第22代会長を拝命いたしました,京都大学防災研究所の王でございます。長年にわたり本学会の発展を支えてこられた歴代会長をはじめ,諸先生方ならびに諸先輩方のご功績を思いますと,その責任の重さに身の引き締まる思いであります。微力ではありますが,本学会のさらなる発展と,地すべりをはじめとする斜面災害の軽減に資する学術・技術の進展のため,誠心誠意努める所存です。会員の皆様のご支援とご協力を賜りますよう,心よりお願い申し上げます。
日本地すべり学会は,1963年に地すべり総合研究会として発足して以来,60年以上にわたり,地すべりをはじめとする斜面災害に関する基礎研究や技術開発を推進し,日本のみならず世界の斜面防災分野の発展に大きく貢献してきました。本学会の最大の強みは,理学,工学,農学,社会科学など,多様な分野の研究者・技術者が一堂に会し,学際的な議論と連携を進めている研究コミュニティである点にあります。さらに,産・官・学の多様な専門家が緊密に連携しながら,斜面災害の発生機構の解明,危険度評価手法の開発,対策技術の高度化に取り組んできたことにより,日本の斜面防災技術は世界的にも極めて高い水準に達しています。
とりわけ,日本は地震に伴う地すべり研究の分野において世界をリードしてきました。数多くの地震地すべりに関する現地調査や観測研究を通じて蓄積された知見は,地震時における斜面災害の理解を大きく進展させ,国内外の研究者・技術者にとっても重要な指針となっています。また,本学会の活動は国内にとどまらず,国際的な研究交流や技術協力を通じて,世界の斜面災害研究および防災技術の発展にも大きく貢献してまいりました。
しかしながら,近年の自然環境および社会環境の変化は,斜面災害を取り巻く状況を大きく変えつつあります。地震活動の活発化に加え,気候変動に伴う極端降雨の増加により,斜面災害は頻発化・激甚化・多様化の傾向を示しています。これまで多くの研究成果や対策技術が蓄積されてきたにもかかわらず,新たな形態の地すべりや予測が困難な斜面災害が各地で発生しており,斜面防災に対する社会的要請はますます高まっています。このような時代の転換期において,本学会が果たすべき役割は,これまで以上に重要になっていると確信しています。
こうした課題に対応するため,本学会が今後重点的に取り組むべき方向性として,以下の四点を挙げたいと思います。
【基礎研究のさらなる深化と革新】
地すべり現象は地質,地形,地下水,地震動など多くの要因が複雑に関与する自然現象であり,その発生機構には依然として多くの未解明の課題が残されています。今後は,これまで蓄積されてきた観測研究や室内試験,理論解析などの成果を基盤としつつ,新たな研究手法や先端技術を積極的に取り入れていく必要があります。特に,高精度地形データ,衛星観測,リモートセンシング,ビッグデータ解析などの先端技術を活用することにより,斜面災害の発生機構の理解をさらに深化させるとともに,より高精度かつ信頼性の高い危険度評価手法の確立を目指すことが重要です。
【次世代の斜面防災を支える新しい研究基盤の構築】
近年,観測技術や情報技術の急速な発展により,斜面災害研究の方法論は大きな転換期を迎えています。衛星観測やドローン計測,IoT観測機器の普及に伴い,斜面の変形や地下水挙動などを高精度かつ継続的に把握することが可能となりました。さらに,これらのデータを数値解析やAI技術と統合することにより,斜面災害の発生過程をより精密に再現・予測することが可能になりつつあります。今後は,こうした先端技術を活用した「デジタルツインによる斜面災害評価」やリアルタイム監視など,新しい防災の枠組みの構築を積極的に推進していくことが重要であると考えています。
【研究成果の社会への還元と人材育成の強化】
学術研究の成果は,最終的には社会の安全・安心に貢献するものでなければなりません。本学会に蓄積された知識と技術を,行政機関,地域社会,防災実務の現場に分かりやすく発信し,防災政策や対策技術の向上に活用することが重要です。また,災害発生時の調査活動や情報発信,防災教育,アウトリーチ活動などを通じて,社会との連携をより一層強化していく必要があります。同時に,斜面防災分野を担う若手研究者・技術者の育成も喫緊の課題です。学会として,若手が活躍できる魅力ある研究交流の場を提供し,次世代の斜面防災を担う人材を継続的に育成していくことが不可欠であると考えています。
【国際社会への貢献】
本学会は国際社会においても重要な役割を担ってきました。International Symposium on Landslides(ISL)やInternational Conference and Field Trip on Landslides(ICFL)などの国際会議は,本学会の関係者によって提案・発展してきたものであり,現在では世界の地すべり研究を推進する重要な場となっています。また,本学会の活動を基盤として設立されたInternational Consortium on Landslides(ICL)とその学術誌 Landslides は,現在,世界の地すべり研究の中心的なプラットフォームとなっています。また,本学会の会員によって提案された地すべり発生時刻の予測手法や,開発された最先端の地すべり研究用試験機(リングせん断試験機)は,世界各地で活用され,地すべりの学理研究ならびに災害軽減に大きく貢献してきました。こうした歴史と実績を踏まえ,本学会は今後も国際社会における責務を果たすとともに,日本発の優れた技術と知見を,より積極的に世界へ発信し続けていく必要があると考えています。
地すべり災害の軽減は,地域社会の安全・安心と持続可能な社会の実現に直結する重要な課題です。本学会がこれまで蓄積してきた知識と技術を社会へ還元し,国内外の斜面防災の向上に貢献していくことこそが,本学会に課せられた使命であると考えています。
学会活動は,会員一人ひとりの積極的な参加によって支えられています。研究発表会,シンポジウム,委員会活動,国際交流など,多様な活動を通じて,会員相互の交流と研究の発展を促進し,より魅力ある学会づくりに努めてまいります。
また,石丸聡副会長,堤大三副会長,佐藤浩専務理事をはじめとする総勢22名の理事会,5つの部,7つの支部,および学会事務局の緊密な協力のもと,以上の活動に全力で取り組んでまいります。会員の皆様におかれましては,今後とも本学会活動への積極的なご参加と温かいご支援・ご協力を賜りますよう,心よりお願い申し上げます。