本学会は地すべり及びこれに関連する諸現象並びにその災害防止対策に関する調査・研究・受託および助成を行っています。

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公益社団法人日本地すべり学会の活動と今後の展望
  - 2017年の年頭にあたって -

日本地すべり学会会長 落合博貴  学会の災害対応を振り返って
 当学会は、1995年兵庫県南部地震,2004年新潟県中越地震,2008年岩手・宮城内陸地震等の地震時地すべり・斜面崩壊への取り組みの経験を基礎に,2011年3月11日の東日本大震災では学会調査団派遣の他に国土交通省の研究開発課題「類型化に基づく地震による斜面変動発生危険箇所評価手法の開発」に取り組んできました。また,日本学術会議和田章会員を議長とする「東日本大震災の総合対応に関する学協会連絡会」の活動にも参加し,特に2015年1月に同会より移行・発足した防災学術連携体においては,4月に発生した熊本地震による斜面災害に際して熊本地震に関する緊急共同記者会見(4/28),熊本地震・緊急報告会(5/10),熊本地震・三ヶ月報告会(7/16),第1回 防災学術連携シンポジウム(8/28)等,災害直後より積極的な活動を展開し,日頃の調査研究活動の成果の国民への普及に努めてきたところです。  一方,2013年伊豆大島と2014年広島の土石流災害,2015年関東北部豪雨災害など,線状の降水域が数時間にわたってほぼ同じ場所に停滞することでもたらされる局地的大雨は土砂災害の原因として近年注目されています。当学会は2014年度より国土交通省の研究開発課題「局地的大雨による大規模表層崩壊発生機構の解明と危険値抽出技術の開発」に取り組み,伊豆大島だけでなく2012年の九州北部豪雨による阿蘇山での表層崩壊についてもすでに調査しており,これは2016年熊本地震による南阿蘇村を中心とする斜面災害の発生機構の解明に資する重要な知見を提供するものです。今後も調査研究の蓄積をベースとした新たな研究活動の展開が期待されます。

 学会を取り巻く中長期的課題
 近年の気候変動に伴う局地的大雨の多発に対応して警戒避難に関する情報が高度化しているものの、それを受け止める側の地域の行政・住民がそうした詳細な情報を活用できず,結果的に早期の警戒避難に生かせていない事例が繰り返し発生しており、防災上の大きな問題であると考えます。当学会では,こうした防災の担い手の不足に関連して、斜面災害・地盤災害についての基礎的な教育であるはずの高校地学の受講者が全国的に減少していることをとりあげ,地学教育を含む防災教育のありかたを研究発表会の一テーマとするとともに、斜面災害に関する一般住民へのアウトリーチ活動にも取り組んできました。  最近の大学生が一般的に環境・生態系指向であることや、公務員採用試験における試験区分の変更等の影響だけでなく、そもそもこうした基礎的な教育においてさえ防災の将来を担うべき人材である学生数が減少している状況です。さらに、博士課程進学者の大学や研究機関でのポスト不足とともに民間への就職も困難となっており,学位取得後も不安定なポスドクの身分を敬遠して博士課程への進学希望者が激減していることは、学会の将来を支える研究者の減少に直結しており,すでに分野によっては後継者がいない事態を迎えており、制度的な対策を含めて緊急に対処すべき課題となっています。  当学会は平成25年度の学会創立 50 周年記念シンポジウム「地すべり災害への対応―技術の変遷と課題」においてこの問題を取り上げ,平成26年度には会員数減少対策として若手対策WG(ワーキンググループ)とシニア対策WGを組織して担当理事の下に様々な対策を検討してきました。特に若手の育成策として,学生向けの「大学院進学ガイド」,若手の学会参加への働きかけ強化,若手研修会の開催,若手の学会活動支援等に取り組むこととしています。情報発信の強化策として,小中学生への出張授業や出前講座等のアウトリーチ活動の推進,学会のウェブサイトの充実とSNSの活用にも取り組み始めました。あわせて災害発生時のメディア等への対応のための解説委員の組織化も進めています。  当学会独自の取り組みとして,2015年より任期付き特別研究員を雇用して競争的資金である国土交通省の研究課題に取り組むことにより,研究成果発表の場としての学会から自ら研究開発を行う学会へと一歩を踏み出しました。学会独自の研究業績を蓄えて当学会が文部科学省の研究機関としての認定を受けることにより,学会員自らが国の科学研究費補助金いわゆる科研費を申請することを目指しています。これは,将来の若手人材の育成だけでなく,獲得した研究資金の間接費を活用して前述の学会活動の活性化に取り組むことも可能となります。もちろん,この取り組みのためには,資金の獲得への継続した取り組みが必須であり,結果的にも会員各位の研究活動のさらなる活性化に期待するところが大きいと考えますので,なにとぞご協力をお願い申しあげます。

 国際的な課題と方向性
 国際的な取り組みとして,これまで2012年に学会主催の国際会議「International Symposium on Earthquake」を群馬県桐生市で開催し、ブロシーデイングを刊行しています。2015年3月、仙台で開催された国連世界防災会議の「世界の防災展」において,当学会は日本応用地質学会と合同でブース展示を行い、これまでの減災への取り組みを発信してきました。また,日本の地すべり研究・対策技術を国際協力に生かすためと題して昨年6月にシンポジウムを開催しました。このなかで「地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)事業を通したベトナムへの技術移転」が話題の一つとなりました。これは,2012年から始まった国際協力機構JICAと科学研究機構JSTの共同プロジェクトであり,プロジェクト推進に参加した研究者延べ約50名の半数以上が当学会の会員であることから,今後の学会活動の方向性として国際的な防災へ取り組みの可能性を示すものと考えます。しかしながら,その一方では以前に比べ学会誌への投稿数が横ばいの状況で,国際誌や国際シンポジウムへの参加者も減少しています。また,当学会が会員となっている国際斜面災害研究機構ICLが出版している国際誌”Landslides”は,研究評価の指標として国際的に用いられているインパクトファクターが3を超えているにもかかわらず,日本からの投稿が減少しており極めて残念な状況であり,ひいては国際的な地すべり研究におけるわが国のプレゼンスの低下も懸念されます。2020年にはICLが主催する5th World Landslide Forumが日本で開催されることとなっており,最近の会員各位の活動で得た研究成果を世界に向けて発信する絶好の機会ですので,よろしくご参加いただくようお願い申し上げる次第です。

公益社団法人日本地すべり学会 会長
落合 博貴