第15代会長
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日本地すべり学会の今後の発展に向けて
平成24年5月11日に開催された平成24年度第1回理事会において,平成24, 25年度の会長を任命されました。鵜飼恵三前会長を中心に積み上げられた前年度までの実績を踏まえて, 日本地すべり学会の発展と科学技術の振興及び安全な地域社会の実現に向けて全力を尽くしたいと考えております。皆様方のご支援ご指導を賜りますよう宜しくお願い申し上げます。
日本地すべり学会は,昭和38年8月に地すべり総合研究会として発足して以来,来年で50周年を迎えます。その間、先人の方々の献身的な努力によって, わが国は斜面防災分野で世界をリードしてきました。それは,当学会が国際的な災害軽減への取り組みの中でさまざまな協力を求められていることを意味すると言えます。 一方,当学会は,地球科学・農学・工学などきわめて幅広い専門分野の会員で構成されていることが特徴です。 その点では,総合的な視点に立って斜面の専門家という面から地域や地球規模の環境問題解決に貢献していくことも重要です。 土砂災害軽減はその中の重要な分野です。さらに,当学会は,産官学各界の立場の違う方々,そして山間奥地から大都市圏まで各地で活動する会員からなっています。 この点では,地域や社会のさまざまなニーズ・実情を反映した学会活動を展開していくことが必要です。
ご存知のように,当学会は北海道・東北・新潟・関東・中部・関西・九州の各支部を持ち,理事会・代議員による総会での意思決定,会長・副会長・専務理事と 総務部・事業計画部・研究調査部・編集出版部・国際部での事業企画・実施や,事業・研究に関する委員会活動という形を取っています。 地すべりを扱うには,その地域性と歴史性を踏まえることが重要であることから,地域の地すべり専門家がいる支部活動は,それほど大きい規模でない学会にもかかわらず重要なものとなっています。
以上のような当学会の特徴の上に立って,今後取り組むべき課題を私なりに取り上げてみました。皆様のご意見を頂ければ幸いです。
まず,喫緊の課題として公益法人化の移行達成が挙げられます。これは,丸井英明元会長の時期から取り組んできたものであり年内の移行を目指して進めて行きます。 当学会の活動はきわめて公益性の高いもので,行事で言えば,全国規模の研究発表大会だけでなく 支部主催の地すべり現地見学会・シンポジウム,地域での子供防災学習の取り組みなどを積極的に行っていく必要があります。
一方,地すべりは,地質や地形,地下水などが複雑に絡み合い,動きも1年経って壁に少し亀裂が入るようなゆっくりしたものから,目の前で地塊が落ちて行くような高速のものまで千差万別です。 この複雑さが,時として現象の理解を難しくしたり,対策の検討に苦慮する原因にもなっています。地域防災力向上の必要性が叫ばれる今, 一般の方々に地すべりを理解して頂き,前兆をいち早く捉え災害対応に繋げることが重要で,そのためには地すべりを分かりやすく説明していくことも必要です。 反面,複雑な現象を,現場を見ながら少しづつ解明していくのはまさに科学的アプローチと言えます。 このような自然を科学し地域の安全を守る,そして地すべり地に育まれた自然や文化を継承することは,子供達にとっても夢のあることではないでしょうか。 地すべり地での防災・環境教育あるいは理科・社会科教育といった切り口も考えられるかもしれません。
近年多発する大規模斜面災害とくに大規模な地すべりや地震による斜面災害のように集中発生する地すべりの発生機構・予知予測や対策などの検討が重要な課題です。 平成23年度まで3年間行われた当学会地震地すべり特別研究プロジェクトでは,歴史時代まで含めた多数の地震に起因した地すべりの特徴が明らかにされ, その調査・解析手法も含め書籍として刊行されました。この成果を受けて、当学会では地震による斜面変動危険個所把握手法の開発に取り組んでいくことが,来るべき巨大地震への対策として重要です。
土砂災害にかかる防災行政予算の減少,高齢化社会,過疎で管理されない土地の増大,地球規模の気候変化など,地すべり災害の懸念は今後高まっていく可能性があります。 蓄積された智恵と技術を次世代に伝承し,新たな技術や考え方を取り入れながら,斜面を科学し安全安心な社会を作るために, 会員の皆様とともに頑張って行きたいと考えております。皆様のご支援・指導を頂ければ幸いです。
(公社)日本地すべり学会会長
弘前大学農学生命科学部教授
檜垣 大助