受賞者 | (社)日本地すべり学会 九州支部 |
対象論文 | 「九州の地すべりケースヒストリー」1995年、 「(続)九州の地すべりケースヒストリー」1996年、 「九州の地すべり−予知予防について」2000年の一連の研究成果 |
審査結果
1) 九州の地すべりケースヒストリー
平成5年より九州支部(設立平成3年)活動の一連の事業としてケースヒストリー作成が着手された。2年後の平成7年に出版された、中小規模の地すべりを対象としたケースヒストリー集である。
編集・出版にあたっては、九州支部長を中心に産学共同で行われ、福岡・佐賀・長崎・熊本・大分・宮崎・鹿児島の各県の地すべりに関する調査・機構の解明、対策工事および九州地区の地すべり発生のメカニズムについて記載されている。執筆者は20数名に及び内容はケースヒストリー23篇と地すべり全般4篇で構成されている。各執筆者はいずれも豊富な経験を有した技術者が中心で、各地すべり地区を詳細な調査・解析や効果的な対策工事が紹介されている。
冒頭における「地すべりの発生機構について」、「地すべり対策工の傾向」、「地すべりと地質について」、「地すべり調査における物理探査の有効利用について」は要領よくまとめられており、技術者にとって格好の参考になる。
加えて災害直後の生々しい状況、機器観測結果、地質断面図、安定解析図などの図面や写真も多数挿入されており、特に対策工の設計については計算式も掲載されており、経験に負うことも多い地すべりの調査対策にとって貴重な指針となる。
2) (続)九州の地すべりケースヒストリー
平成8年好評の前篇ケースヒストリーに続いて出版された。産学共同の編集委員会が組織され、対象とした地すべり地区は沖縄県を除く、九州全域の各県に及んでいる。内容は、ケースヒストリー25篇と地すべり全般4篇とほぼ前回と同数で執筆者は30数名の研究者・技術者で構成されている。
ケースヒストリーは前回に比し、記述されている内容も富豊で技術も高水準であり、更に理解し易くなっている。執筆者の努力の結晶と感じられる労作であり、社会においても高い評価を得ている。
3) 九州の地すべり−予知・予防について
平成7年支部活動の一環として地すべり予知・予防委員会が設けられた。地すべりは、今日その発生の要因や機構についての飛躍的な進歩をとげたが、予知・予防については技術的に未だ難しい問題が多い現況もあり、支部会員の豊富な経験を結集して、予知・予防の可能性を探る努力が傾注されている。
15篇の技術報文を以下の4つのセッションに分類し問題点がまとめ記載されている。セッション1:地すべり予知予防の基本的な考え方について、セッション2:予知に伴う地質調査と危険度の判定・測定対策について、セッション3:切土および湛水が誘因となった地すべりの事例、セッション4:排水工を主体とした地すべりの予防対策について、
となっている。平成12年に出版され、各方面で頻度高く活用されている。
執筆は玉田文吾支部長をはじめ、大学関係者と民間コンサルタントの20数名で、いずれも地すべりに関し優れた学識と豊かな経験を有する研究者・技術者から成る。従来、地すべり防止対策工事は、発生した災害の復旧や再滑動防止を主眼としていたが、ここでは予知予防を主体とした未然の防止・防災に関する貴重な提言もみられ高い評価を得ている。
以上の研究・調査の集大成は、他に例をみない卓越した成果であり、今後に寄与するところが大きく、九州支部のとりまとめた成果に対して受賞が決定した。