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学会情報

学会長挨拶

日本地すべり学会の発展と安全な地域環境の実現に向けて
- Towards attainment of safety regional environment
       as the top agenda of the Japan Landslide Society -

公益社団法人日本地すべり学会会長
山形大学地域教育文化学部教授/八木 浩司

日本地すべり学会会長 八木 浩司

  平成30年6月13日に開催された平成30年度第2回理事会において,平成30・31年度の会長として任命されました.落合博貴前会長を中心に積み上げてこられた前年度までの成果と実績を踏まえ,(公社)日本地すべり学会の発展と科学技術の振興および安全な地域社会の実現に向けて全力を尽くす覚悟です.会員皆様方のご支援とご指導を賜りますようお願い申し上げます.

 昭和38年8月に地すべり総合研究会として発足した日本地すべり学会の定款第3条には,本学会の目的が以下のように定められています.
 「この法人は,地すべり等の斜面変動及びこれに関連する諸現象の研究ならびに当該現象に起因する災害の防止対策に関する研究者及び技術者相互の交流を図り,その有機的な連携のもとに学術的,総合的な調査研究に関する事業を行い,その成果を広く内外に公表し,もって科学技術の振興とより安全な地域環境の実現を目指し,国民福祉の向上に寄与することを目的とする.」

 この高遠なる目的に向かって本学会の先人・会員諸氏の献身的な努力が55年に亘って続けられてきました.また,平成24年10月に本学会が公益社団法人として認可されたことで,社会的使命もいっそう高まってきています.上に示された目的を常に意識しながら,本学会が斜面変動やそれに伴う災害低減に係わる科学技術情報の交換の場としての機能を高めていくことが肝要と考えています.さらに,地球規模での気候環境変化が顕在化している昨今,本学会が,国際的な斜面災害軽減への取り組み,とりわけ途上国における斜面防災技術の移転協力において中心的な役割を果たすべき責任もあります. 幸にも本学会は,地球科学・農学・工学に加えて,防災教育にまで及ぶ幅広い専門分野の研究者・技術者で構成されています.それらの所属は産官学の多岐に亘る上に,会員の調査・研究対象,活動領域は山地から都市にまで広がっています.すなわち,多分野横断的な視点で多様な空間領域をカバーする大きな潜在力を備えた専門家集団といえます.地球規模での環境変化にともなう斜面災害の質的変化に対処し得る技術情報の交換など会員全体で共有していく必要があります.

 本学会は,理事会・代議員による社員総会での意思決定,会長・副会長・専務理事のもとで総務部・事業計画部・研究調査部・編集出版部・国際部における事業企画・実施,そして,その他の事業や研究に関する委員会からなる活動形式をとっています.また,地すべりが地域性を強く反映した現象でもあることや地域を拠点とする技術者の多くが地方に配属されている事情から,地方在住会員の情報交換・相互研鑽の場として北海道,東北,新潟,関東,中部,関西および九州の7つの地域支部が設立され,それぞれ活発な活動を続けています.それらの活動内容については理事会にて報告がなされています.

 以上のような,本学会の特徴を認識し,斜面防災分野で今後取り組むべき課題を私なりに取り上げてみました.

 斜面変動研究の推進と普及
   20世紀末に民用化されたLiDAR等の利用による高精度地形図は,この20年間で地形変形把握・表現に大革命をもたらしています.その成果は,地すべり・斜面変動研究や災害対策の具体化に大きく貢献しています.さらに昨今の急速な計測技術革新とIoT化が災害科学へも導入されつつあります.このような最新技術を用いた地すべり研究の研究発表会を通じた公表は,多くの会員の参加を促す契機となります.このことから,全国規模の研究発表会における特別セッションやシンポジウムの企画段階でのテーマ設定の工夫が重要になります.同様に支部におけるシンポジウムでは,ローカルな対象に最新技術を如何に適用して,地方の会員のメリットになる企画,すなわち参加したくなる企画を進めなければなりません.さらに,支部単位で行われる講習会や現地検討会を通して,若手会員の技術力育成を学会が支援して行く事業をこれまで以上に推進する必要があります.同時に,若手会員の学会誌投稿において投稿料の軽減などのインセンティブを付与することも,投稿数を増やすために実現すべき課題です.

 公益社団法人の責務として,社会的に高い関心が向けられる斜面災害に対して,その本質を的確に捉え,有効な対策の方向性に関する助言・提案が求められています.落合前会長の下で解説委員会が設置され,マスコミから寄せられるさまざまな斜面災害に関する質問への対応活動が続けられています.解説委員会については,地方で起こる諸現象にも対応出来るよう支部会員をも組み込んだ組織強化も課題です.
 昨今の公務員定数減の波は,一部の地方自治体における地すべり担当者数にも及んでいるようです.このため国の機関が直接的に関与しにくい中規模の地すべりについて対応が遅れる事例があるようです.そのような災害情報は地域内で留まりがちで,隣県でさえ届かないことが多いようです.今後は,災害ウェブサイトを通じた情報収集を進め本部・支部間での情報共有を行うための研究を始めたいと考えます.緊急調査団の派遣についても,支部の枠を越えて経験豊かなシニア会員にも加わっていただく制度について検討します.

 社会への貢献事業にはアウトリーチ活動があり,それらにはさまざまな形態があります.既に本学会では支部事業として自治体や関連協会への研修講師派遣,学校への出前授業,地域での防災ワークショップ等の活動を行っています.しかし残念なことに,本学会HPでは,地すべりとは何か,斜面災害とは何かという基本的な事象について中学生でも判る解説が掲載されたページは見当たりません.専門家のためだけのHPはいまや許されません.現在学校現場で声高に叫ばれる「アクティブラーニング」とは,あるテーマに対して子供たちが自ら調べて考えをまとめ上げることによって達成される汎用的能力向上学習のことをいいます.ある斜面災害が社会的な大きな関心事となったとき,子供達が「地すべり」と検索しただけで本学会のHPに辿り着き,そこで学べるようなページを用意する必要があると思います.これは,子供達だけのものではなく,マスコミ向けの有効なアウトリーチ活動でもあります.

 国際化の進展
  パキスタン地震以降,本学会は海外での緊急災害調査・災害復興調査に積極的に関わり,海外の政府機関および地方政府との研究交流協定を締結してきています.2018年6月には,落合前会長のご尽力でベトナム交通科学研究所との研究相互協力に関する覚書を交換し,あらたな交流が進められようとしています.今後の進展が期待されます.

 本学会が主催した近年の国際会議としては2008年仙台で開催された「アジア・太平洋地域におけるランドスライドハザードとその管理」,2012年桐生で開催の「地震地すべり国際会議」があり,今年は岩手・宮城内陸地震10周年記念国際シンポジウムを東北支部として後援します.2020年に京都で開催されるICL・5thWLFに際して多くの会員が参加されるよう,HPや学会誌上での広報に注力いたします.

 他学会とのゆるやかな連携
 本学会が多分野横断的で学際領域の現象を対象としている以上,他学会との交流や連携も必要となります.既に,日本応用地質学会とは入会案内や学術大会の案内をそれぞれの大会等で相互に頒布する活動が始まっています.このような近隣領域の学会とのゆるやかな連携を進め,シンポジウムの共同開催などを模索いたします.また,関連する海外での学会・シンポジウム情報について他学会との情報交換も進めます.

 地すべり現象の解明や防災・減災に直接関わる学会活動を活発化し,さらに公益社団法人としての責務を果たすため,以上に述べた他にも多くの山積する課題があります.学会員の積極的な参加と協力を戴きながら課題解決取り組んでいく所存です.皆様方のご指導ご鞭撻をお願い申し上げます.